水指《破袋》

update:2020/02/07

はじめに…
本稿では無責任且つ個人的に主観を書いています。
 
第6回は《破袋(やぶれぶくろ)》です。茶碗が続きましたので、初の水指ですね。
 
まずは、「水指」って何?という人がいるかもしれないので、そこを簡単に押さえておきましょう。
水指(みずさし)とは、茶道具の一つ。文字通り、水を入れておく入れ物で、お茶を点てる時、茶碗をすすいだり、茶釜に水を足したりするのに使います。
その一連の動きも、茶道の所作に入っているんですよね。
 
さて、本題の《破袋》の基本情報。
 
重要文化財『古伊賀水指 銘 破袋』
桃山時代の伊賀焼で、古田織部が添え状をつけて大野主馬に贈り、その後は伊賀藤堂家に伝来した名品。現在は東京の五島美術館が所蔵しています。
 

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五島美術館HP → コレクション → 茶道具 → 水指 でチェック。
 
多くの水指は、端正な筒型が主流です。しかし、織部好みと呼ばれるものは、自由だったり、独創性を重んじ、「歪み」も好まれました。
本作も、袋物、あるいは籠形の水指ですが、でっぷりとした存在感を醸しだし、歪み、さらにはヒビまで入っています。
そして織部は「今後是程のもなく候」、つまり、今後これほどのモノは出来ないと思うと書き記しているのです(この書状は、関東大震災で焼失)。
 
面白いことに、この書状に書かれているのは「大ひゝきれ一種」となっていること。つまり、元々は「大ひびきれ水指」と呼ばれていて、《破袋》は本来の銘ではないということです。
 
もっとも、この大きなヒビを見れば、だれでも《破袋》の銘を疑うものはいないでしょうが。
 
では、この銘はどこから来たのかというと、もう一つ《破袋》があるのです。
同じ頃に焼かれたと思われる、古伊賀の水指ですが、個人蔵であるため、なかなか見る機会も少ないが、紛れもなくこちらも名品。
五島美術館のものよりさらに肉感的で、胴が大破したと言えるほどの亀裂。まさに袋が膨張して破れた感じがします。
 
こちらが、元々《破袋》の銘のあった水指で、五島美術館のほうは、重要文化財の指定に際して名づけられたそうです。。。
 
いずれも、大きく歪んだフォルムと、焼いた時にはじけた感がそのままの亀裂が、圧倒的な存在感を醸し出しており、これに合わせる道具はいかなものであったかと、想像するにゾクゾクしてきます。
 
ちなみに、そのひび割れた部分は漆で埋められていますよ。
 
この、藤堂家旧蔵の《破袋》に触発され、模して制作された近代の伊賀水指にも有名なものがあります。
近代の陶芸の巨匠にして数寄者、実業家の川喜田半泥子の作です。
 
『伊賀水指 銘 慾袋』
 

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石水博物館HP → 石水博物館について → 所蔵品紹介 →半泥子の作品から でチェック
 
こちらは、本来の《破袋》よりも、さらにデフォルメされてどっしりとした存在感。さらに大きなヒビには黒の漆で埋めるだけでなく、「青海波」を書き込んで、遊び心たっぷり。
 
手本として似せて作っていても、そのまま写す気はなかったんですね。
 
いずれの美術館も、常設しているわけではありませんが、同館を代表する所蔵品の一つですので、きちんとチェックしていれば、見る機会はそれなりにあります。
 
ぜひ、機会をみつけて、見に行ってみてください。
この存在感は、実物でないと、伝わらないと思います。
 

伊賀焼―伊賀の七不思議


 
 
 (2023年加筆修正)