窯を使う話

update:2018/06/15

前回は、やきものを知る上で、窯の話が欠かせない理由を書きました。
では、今回はもう少しだけ踏み込んで、窯を使うということをイメージしてみましょう。

実は、重要なのは、どのように窯の中に「もの」を置くのか、なのです。

調理用のレンジですと、庫内にまんべんなく熱が当たります!というのが“売り文句”かもしれませんが、「やきもの」における、特に現代における「陶芸」において、窯内の作品はくまなく同じように熱が当たるというのは、必ずしも良いこととばかりは言えません。つまり、大量に同じモノを生産したいのなら、同じように焼くことも必要ですが、個々の陶芸家は色々なモノを同時に焼く方が一般的。それだと、窯内の熱が均一だから、同じ焼き上がりになり、作り手のイメージ通りの作品になるとは限らないのです。単純に、作品が面白くない、という表現を使われる場合もあるかもしれません。

また、窯というのは、スカスカは良くないそうで、窯内にびっしり詰めたいということもあります。この位置に大きな壺を置いて、その脇に徳利を並べて、向こうには皿を重ねて積んでみるか・・・という具合に、窯を焚く前の「窯詰め」の作業も、詰め方によって、仕上がりに大きな影響を与えます。話を聞いていて、いつもイメージするのは、まるでパズルのようということ。かなり複雑なのです。しかし、この位置にこのようにおいて、このように焼けば、こんな感じになる、というイメージを持って、陶芸家は作品の窯詰めをしているのです。

特に薪窯の場合は、薪を焚くところに近い場所と奥の方では、状態にかなりの違いがあることは想像に難くないでしょう。また、電気でも、熱のでる部分に近い作品と、その作品が壁になってその奥にある作品とでは違いますし、作品が重なっていれば、下と上とでも差があります。

本格なピザ屋さんで、たまに石窯を見ることがありませんか? 表面はこんがり、なかはふっくらとした焼き上がりは、炎の素晴らしさかと思います。

・・・少々話が脱線しましたが、この窯詰めの話は、あくまでも一例です。現在は、窯の種類も陶芸の技法も多種多様で、選択肢も本当に多い。目的によっても、作陶のスタイルによっても、話が変わってきます。小振りな窯を使って、それに1点しか入らないサイズの大きな作品を作って、その都度1点ずつ焼く場合だってあります。また、薪窯と電気やガスの窯では、窯内部の構造が根本的に違います。電気窯(窯内で状態が安定しやすい)で薪窯風の結果にしたり、薪窯でも電気のような安定的な焼き上がりにする(薪で焼くと窯内部の場所によっても、焼き方によっても、状態は不安定になりがち)場合もあります。

筆者はあちこちで、陶芸家の窯を拝見する機会を得ましたが、窯に「火之神」「窯之神」が奉られているのをしばしば目にしてきました。どんなに技術が発見しても、最後の一手までは、コントロールができません。そして、現代人といえども、やるべき事をやったら、あとは神に祈らずにはいられないようです。

さあ、少しは窯についてのイメージができてきたでしょうか?
次回からが本題。また、歴史を追いつつ、窯を語ってみたいと思います。
 

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(2011年初出、転載・加筆修正、2023年加筆修正)