update:2019/03/15
さて、黒いやきものの話のつづきです。
前項では、ギリシアや中国の有名な黒をいくつかあげましたが、ここでは日本のものをあげましょう。
日本も結構古くから、黒い器が人気だったようです。
◎日本の黒秞陶器
日本では黒い器は桃山時代に数多くの名品が誕生します。その筆頭が「黒楽」。千利休がプロデュースし、現在まで続く伝統の陶家「樂家」の祖である長次郎が作った黒い茶碗は有名でしょう。
他にも美濃焼の一種で「瀬戸黒」や「黒織部」の茶碗も有名ですね。
これらが共通しているのは「引き出し黒」と呼ばれる技法を用いられていること。鉄分を多く含んだ釉薬を掛け、高温で焼いている最中に窯の外に「引き出して」急冷させると、釉薬の鉄が黒く発色するのです。
黒秞はまだまだあります。「黒唐津」や「黒薩摩」なども知られていますね。
桃山の茶陶文化において隆盛した「黒の茶碗」は、楽茶碗をのぞき、ぱたりと作られなくなったようです。江戸時代に入ると、利休の「侘び寂」より、小堀遠州の「きれい寂」が好まれるようになり、黒より「華やかさ」が好まれたため。
そして、黒のやきものは昭和にはいって、陶芸家の多様性とともに、様々な黒が作られるようになります。
黒楽といえば、当代の樂吉左衞門が筆頭にあげられますし、瀬戸黒で人間国宝に認定されている作家もいます。ちなみに、瀬戸黒の人間国宝は、最初が荒川豊蔵、現在は加藤孝造(※註)。
さらに、「鉄釉陶器」というジャンルもあります。上述の黒秞もすべて(天目も)鉄分の含んだ釉薬ですから、いずれも鉄釉と言って良いのですが、慣例的に、あまり鉄釉陶器という呼称が使われることはないようです。その理由としてあげられるのが、鉄釉陶器で人間国宝に認定されている陶芸家がいるからではないでしょうか。
それが、近代の巨匠の一人、石黒宗麿。その後も清水卯一、現在は原清ですね。
◎焼締の黒
ここまで、釉薬での「黒」を紹介しましたが、もっと原点に戻って、素地そのものが黒いものもあげておきましょう。黒というより「黒灰色」ですがね。土器の流れを汲み、釉薬を掛けずにしっかり高温で焼き締める器にも、黒のものがあります。上述の黒秞陶器に比べて、プリミティブな黒と言ってもよいかもしれませんね。もちろん、歴史も黒秞陶器よりも古いです。
代表的なところが、珠洲焼です。能登半島で中世の頃まで焼かれていましたが、その後途絶え、現代になって復興されました。現在の焼締陶は、須恵器の流れを汲んだ黒灰色の素地と、モダンな意匠のもので、近年、注目されています。
もう一つが備前焼の一つで「黒備前」。伊部手とも呼ばれ、成形後の素地に、黒く発色する土を塗って、黒く焼き上げたものです。
さて、ここまで、日本の黒をご紹介してきました。
現在では、黒といってもさまざまな「黒」が作られ、作家の個性が発揮されています。
「ぬばたまの黒」もあれば、「鋼のようなシャープな黒」もある感じかな。須恵器を彷彿させる「プリミティブな黒」もあれば、「西洋絵画のような黒も」の使い方もあるでしょう。
…こう書くと、酷くあいまいな表現になりますが、それぞれ陶芸家たちが、なにを求めての黒か、という話なので、そのような表現になってしまうのです。とにかく、言いたいことは、黒も“多彩”だということ。現在の日本の陶芸の世界では。
興味のある方は、いろいろな作家の個展などに足を運んでいただきたいですね。
さて、次回は“ちょこっと”磁器の黒を紹介して、黒を締めましょう。
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(2019年初出、2023年加筆修正)