赤編:ポイントカラー

update:2019/04/15

前稿に引き続き、赤を考えていきます。
今回は、ポイントカラー、つまり「描く赤」です。

中国では、酸化銅を成分とした様々な赤の釉薬が生み出されたと前稿で書きましたが、その変わりとして使われるようになった赤が酸化鉄の「ベンガラ(弁柄・紅柄)」です。釉薬の成分にもなりましたが、安定する赤ができることもあり、絵付けとして多用されるようになりました。

ちなみにベンガラは、陶磁器だけではありません。例えば、フランスのラスコーやスペインのアルタミラの洞窟壁画にも見られる、人類にとって最古の赤色顔料です。日本でも縄文土器はもちろん、高松塚古墳に描かれた女性の赤い衣もベンガラが用いられており、現在も鮮やかな色を見せていることはご存じの方も多いと思います。

◎上絵付けの色絵・赤絵・五彩

白い磁器の誕生後、ベンガラでさまざまな絵付けを施すようになりました。それが、日本では「色絵」、中国では「五彩」と呼びます。中でも、赤を主体とした絵付けを「赤絵」と呼ぶようになりました。いずれも上絵付けです。
多彩な絵付けで知られる有田焼、九谷焼、京焼などのいずれも、色は赤の他に黄や緑、紺青・紫などが用いられますが、この中で、赤だけが不透明の絵の具であることも特徴。ちなみに、色絵は上絵付けですが、下絵付けで呉須の青を描いて透明釉を掛け、その上からさらに色絵付けをする呉須赤絵の手法もありますね。
日本で赤絵の筆頭として思い浮かべるなら、有田の酒井田柿右衛門。また、九谷には、細密な極細の赤線で描かれる九谷赤絵の細密画も人気があります。

◎おまけ:下絵付けのベンガラ

ちなみに、ベンガラは上絵付けだけではなく、下絵付けにも使われます。しかし、これは赤絵とは呼ばれません。「鉄絵」です。古くは唐津や織部などの絵付けに見られますが、赤ではなく、黒っぽく発色しますので、赤というイメージはないでしょう。

◎下絵付けの釉裏紅

下絵付けで赤を描いたものを、「釉裏紅(ゆうりこう)」と呼びます。ベンガラの鉄に対し、こちらは銅。還元焼成によって赤く発色させますが、前稿の辰砂と同様、非常に技術的に難しい技法です。なかなか鮮やかな赤にはなってくれないようですね。古くは、中国で元時代には作られていたようで、18世紀の朝鮮時代の壺などにも見られます。
一方の日本は、初期の伊万里に作例が見られますが、非常に難しくて紋様が安定しなかったようで、江戸時代の中期には作られなくなったようです。ですから、辰砂と同様、日本の釉裏紅が発展したのは近現代に入ってからと言ってもよいでしょう。人間国宝(重要無形文化財)であった近代の巨匠・近藤悠三や、昭和の人間国宝・加藤卓男の釉裏紅はよく知られていますね。

◎脱線の緋襷

赤で描く、ということで、絵付けとは違いますが、ちょっと脱線で備前焼に緋襷(ひだすき)も加えておきます。
備前焼は、釉薬や絵付けなどの装飾を用いず、しっかりと素地を焼き、窯の中の灰を被った自然釉などの炎による表現を見せる焼締陶です。その中で、緋襷は装飾性の高い備前焼と言えるかもしれません。
緋襷とは、薄茶の素地に、襷のように朱色の線が浮かび上がっているもの。これは、素地に藁を巻き、 匣鉢(さや)と呼ばれる鉢に入れて窯の中にいれて焼くことできるもの。直接、器に炎や灰がかからないため、素地は薄茶になり、まかれた藁の跡は緋色の線になって残るのです。
赤のやきものに入れるのは、異論もあるかと思いますが、自然の赤色として、幅広く考えてみると、これもぜひ加えてみたくなりますね。

さて、代表的な「赤」のやきものをご紹介しました。
次回は、「青」を予定しています。

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(2019年初出、2023年加筆修正)